生命保険はじめました
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米国東海岸にハリケーン上陸との噂もあった7月8日金曜日の朝。目覚ましがけたたましく鳴り響く6時過ぎ、目をこすりながらいつもより薄暗いなぁと思いつつも、連日の蒸し暑さに備えることばかりを覚えてきた体は、半分寝ぼけた出社までの慌しい30分の間では、装いをその涼しさに合わせることができない。玄関を出た瞬間感じた肌寒さは、会社までの徒歩10分の道のりのあいだ感じることになり、1年経った今もなお変わりやすい東海岸の天候に無防備に振り回されている自分に、いい加減学ぼうよ、そう言い聞かせたくなる。
そんな風に始まった金曜日もあっというまに過ぎ去り、皆が一週間の疲れを癒そうと各々のウィークエンドに向けて発って行く。同じフロアに設置された小さなジムで一汗流し、熱いシャワーを浴びてすでに人気(ひとけ)がなくなったオフィスに戻ると、ふとジャズが聴きたくなった。来週NYCに遊びに来るジャズ好きの友人から、今週は割といいピアニストがトリオで出ているよと聞いていた。迷わず店に電話を入れて、23時開演のセカンド・セットの予約を入れることにする。急ぎ足で海老ぷりぷりのブリトスをほうばりながら帰宅し、着替えてから、タクシーに飛び乗って7番街を11丁目付近まで南へ向かった。 ********** ジャズを愛する人にとって、ここヴィレッジ・ヴァンガードは、聖地のような存在だ。数え切れないほどの巨匠たちがここで育ち、歴史に残る名盤を録音し、そして生涯ここを愛し続けた。 狭く薄汚い店内には、出演を重ねた往年のスターたちの白黒写真が並ぶ。紅いカーテンが後ろにかかった小さなステージの最前方左手には、特にこの店に馴染みが深いミュージシャンたち。ボクが知っている顔だけでも、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、デューク・エリントン、ホレス・シルヴァー、ソニー・ロリンズ、トミー・フラナガン、ビル・エヴァンス、マッコイ・タイナー、ロン・カーター。(一人、フリューゲルホーンを持った人が分からなかった。アート・ファーマーか?)そして、一人大きく掲げられているのが、コルトレーン。すぐ右下には、ピアニストだった奥さん、アリスの写真も。お!ついに我らがブラメまで仲間入りしてるぞ。彼もすでに伝説となりつつあるということか。 ステージの右手には、大きくセロニアス・モンクのStraight No Chaserのジャケットが掲げられている。その左には、フォラオ・サンダース?っぽい、モクモクのヒゲのサキソフォーニストと、ベースだからミンガスかなぁ。モンクの右には、ボクにとっては感動的な一枚の写真が。1961年だっけ、Waltz for Debby / Sunday at the Village Vanguardの2枚が録音されたときと思われる、ビル・エヴァンストリオの3名がテーブルで談笑する姿が。スコット・ラファロとエヴァンス、ポールモチアンを捕らえた写真は、おそらくこれが最後なのだろう。この日の数日後、天才ベーシストのラファロは、交通事故で亡くなることになり、相方を失ったエヴァンスは絶望的な気持ちでピアノから約1年離れ、より麻薬にどっぷり漬かっていくことになる。 初めてこの店に来てから、もう10年近く経つだろうか。自分のなかで大切だった場所が、次から次へと「新しく」なっていく、そんなことが多いなか、この店だけは、エヴァンスがあの名作を録音した頃から変わらず、そしていつまでも変わらないないのだろう。テーブルに座って目を閉じると、目の前にあるスタンウェイのピアノに、エヴァンスが低く頭を垂れて、鍵盤に向かっているような気がしてならない。 ジャズをこよなく愛するオーナーは、店が伝説となって久しい今もなお、決して商業的な路線を辿ることはせず、安価な入場料を大幅に値上げすることもなく、内装もメニューも変わる気配がない。この時代を超えた音が鳴り響く空間では、時計の針が止まってしまったような、そんな気持ちにすらさせられる。 ヴァンガードでのライブで思い出に残っているのが、2001年9月15日に聴きに来た、トミー・フラナガンのステージ。その週いっぱい予定されていた彼のライブは、この火曜日に思いがけず起きた大惨事ゆえ、この土曜日一日だけとなってしまった。 演奏が始まると、随分と力が弱く、かつ空回りばかりしているように聴こえた。あれ?そう思いながら聴いていたのだが、一曲終わってマイクを手に取って話を始めて、ようやく事情が分かった。彼はもうほとんど痴呆老人のようになってしまっていて、挨拶をするのもままならない。一言喋っては、天井を見つめ、1分くらい間がある。それでもなお、最後の力を振り絞って、自分の孫のような若手ミュージシャンと一緒になって、まるで若い頃に愛した相手を思い出すように、どこか遠くを見つめながら、往年のフラナガン節を取り混ぜながら演奏を続けた。マイクを手にそうとしている姿に比べると、鍵盤の前で無心に弾くその姿は、むしろ力強くすら感じた。まばらだった観客は頑張れ、頑張れ、とまるでわが子の遊戯会を見守るような気持ちで、その演奏に聴き入った。 ライブが終了して、店内後方のバーカウンターに座る彼のところにいって、話しかけた。日本から来たのですが、日本の皆はあなたの音楽を愛しています。それだけお伝えしたくて。しかし、遠くを見つめ続ける彼は、まったく反応がない。奥さんだか、付き添いの人が優しそうに僕に言った。どうもありがとう。彼はあなたが言っていることを理解しているわ。彼は、その数週間後に亡くなり、この日が最後のステージとなった。 奇しくも似たような大惨事がロンドンで起きたこの週。ふと、夜にこの店に来ようと思い立ったのは、いい音楽に酔いたいという願望だけでなく、世の中に満ちた恐怖心や悲しさから逃避したい、心の奥底のどこかでそんな気持ちが働き、4年前のあの映像を思い出していたのかもしれない。 ********** 開演30分前に店に入り、ピアノの斜め真後ろの小さなテーブルに一人陣取り、目の前にある20センチほどのステージに足を伸ばして乗せる。普段は飲まないコニャックなんかを頼んで、写真を見渡す。目の前のスタンウェイのピアノを見つめながら、ここにエヴァンスが座って弾いていたのかとか、この同じ席でブラッドを聴きに来たなとか、思いにふける。 今日演奏するエリック・リードは聴いたことがないけれど、ジャズファンの友人からは、 「もちろん知ってるって。昔結構好きだった。最近音数が多いのが気になるけど、 ドライブ感あるいいピアニストだよ。行けって。 ヴァンガードのHPで見た。今週NY行けばよかったなあ。」 とのコメントをもらっていた。ドラムのVictor Lewisは知ってるさ。スタン・ゲッツのアルバムで一番好きなのがVoyageだが、その一曲目のI Wanted to Sayはドラマーの彼が作曲したとのこと。歌心を持つドラムは、メロディアスな演奏と自然にブレンドすることができるから好き。 1. You and the Night and the Music 出だしはスタンダード、「あなたと夜と音楽と」。Cマイナーのアップテンポの曲。そういえば、何でも略すのが好きな日本人、同じくジャズのスタンダードである “The Night has a Thousand Eyes” は「よるせん」、名サックス奏者のJoe Hendersonは「じょーへん」、Fifth Avenueは「ゴアベ」、Grand Central Stationは「グラセン」。この曲も、何か略があるのかなぁ。 この演奏では、エリック・リードのクラシックっぽい早弾き、タッチとリズムが気に入らない。和音のヴォイシングとか、メロディそれ自体はかなりいいんだが。指を平たくしてパタパタ弾いている感じだし、リズムも随分と前のめりな気がする。 しかし、途中からリスニングの中心をヴィクター・ルイスのドラムに変えると、丸っきり変わってきた。本当にグルーヴ感があって、リズムがタイトなドラムと演奏していると、まるで走りが安定してスムーズな高級車に乗ったような、そんな快感を覚える。聴けば聴くほど、のめりこんでいった。 2. If I Should Lose You 2曲目もスタンダード。但し、普通はAマイナーとかのアップテンポで演奏するのに、彼はA♭のキーで、ミディアムテンポの4ビートで演奏していた。先日の音階による音色の違いではないが、A♭でブルージーに弾かれると、曲の印象が丸っきり変わってくる。例えるならば、きつめの美人モデルを、違う髪形とお化粧と服装でシックでチャーミングな雰囲気にアレンジしなおした感じ。キースの冗長な演奏がやたらと印象に残っていたため敬遠していた曲だが、広がりと深みがあって、なかなか素敵な曲であると再発見することができた。彼のタッチもミディアムテンポの曲では随分と雰囲気が変わり、結構気に入ってきた。エンディングのブルージーなリフが、やたらしつこかったけれど。 3. Round Midnight モンクは本当に鬼才だけれど、ド・天才だなと感じさせられるのがこの曲。楽譜もろくに読めなかった人間が、これだけ複雑な音のハーモニーを作り上げるとは!この曲を聴いていて、そういえば夢中になって毎日毎日ジャズを練習していた、大学1・2年の頃を思い出した。ラウンド・ミッドナイト、エヴァンスの楽譜見て必死に練習したなぁ。駒場の頃は、毎日のように学生会館の音楽室に立てこもったし、機会があるごとに、授業をサボって、本郷の部室に足しげく通っていた。 4. Is That…? (original) 来年頭に発表されるCDの宣伝を兼ねて、オリジナル曲を2曲ほど。この曲は、日本ツアーをやっている際に、大阪で書いたんだそうだ。Osakaというのは日本で3番目か4番目に大きい都市で、とてもHipなんだ、そうシカゴのように。(観客の中のシカゴ出身者がイエーイと叫ぶ)。正しいかどうかはさておき、彼はそんな風に話していた。曲名の由来は、どっかで聞いたことがありそうな曲で、「え、それって…(あの曲)?」と聞かれることが多いからつけたんだそうだ。一瞬Giant Stepsっぽいくだりがあって、あとはいかにもありがちなコンテンポラリーなコード進行。 5. Wish (original) オリジナル2曲目。マイルドなバラードは、2年前に亡くなったお父さんに捧げて書いたんだって。生きているときはずっと傍にいると思っていたから聞けなかったけど、今だからこそお父さんに聞きたいことがある、そんなモチーフの曲だそうだ。ボクもこれを聞いて、自分の父親が自分に注いでくれた愛情と、元気なうちに色々と聞いてみたいことがあるなぁ、改めて父と自分との関係を見直したくなる、そんなきっかけを与えてくれた。 6. なんかモンクっぽいブルース ボクもセロニアス・モンクが好きだ。独特のリズムと間。美しく深みのあるメロディ。この曲では彼はタッチを初め芸風が丸っきり変わり、完全にモンクをまねていた。自分でもモンクっぽく弾こうとすることはあるが、聴いていて気がついたポイント。 ・ 鉄琴を叩くようなタッチで ・ 「間(ま)」が命!最初の0.5拍は抜いて、間を作る ・ 後ろによっかかるような ノリで ・ 左手のバッキングはしばらくなしか 単音で ・ 不況和音を連発して叩く これであなたも、セロニアス・モンク! 7. Tea for Two 最後に、2人でお茶しましょ、の曲をまた超アップテンポで、しかも裏コード使いまくりで。この曲、テーマに入る前のイントロのコーラスが素敵なんだよねー。アップテンポでは弾いてほしくない曲だけど、イントロの「歌」が本当に愛らしいメロディで、うっとりしちゃう。今すぐ弾きたいよー。 ********** ライブを最前列で全身で浴びるように聴きながら、活力を回復したような気分になった。例によって、色々考え事しながらだったけれど。 それにしてもタクシーで10分、チャージは30ドル。こんなに近くて手ごろなら、もっとしょっちゅう来なきゃ損だ。改めながらも、そう気がついたいま、少なくとも1週間に1回はどこかしらジャズのライブに出かけたいと考えている。
by diwase
| 2005-07-09 17:03
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